1メートルは2億9979万2458分の1秒に光が真空中に進む距離

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 長さの単位「メートル」の定義は、「2億9979万2458分の1秒に光が真空中に進む距離」と難解なものである。

 「メートル」の始まりは、大航海時代を終え国際化が進んだ1790年、フランスの外交官、タレーランの呼びかけによるものだった。各国や各地域で長さの単位がまちまちで不都合なため、普遍的な基準が求められていた。

 パリ科学学士院で検討され、1795年、1メートルを「地球の子午線を一周する長さの4000万分の1」とする定義が決まった。その後、フランス・パリを起点とする三角測量が行われ、同国北部のダンケルクまでと、スペイン・バルセロナまでの距離を測量。これを元に北極点から赤道までの距離が算出され、1万で割った値が1メートルと定められた。

 他にも案は出ていた。一つは「北緯45度の地点で1秒の周期で揺れる振り子の長さ」。これは、測定場所により重力が異なるため却下された。もう一つは「地球の赤道を一周する長さの4000万分の1の長さ」。これは、海や熱帯地域が多く測量が困難だと却下された。ちなみに、地球は球体だが自転の影響で赤道付近は遠心力が働くため、子午線一周より赤道一周の方が長い。

 新しく決まった単位は、旧来の単位に馴染みのある人には受け入れられず、すぐに切り替わることはなかった。フランスは1837年にメートル以外を長さの単位に用いることを禁止。強引ながら国内で普及し始めた。

 世界基準になったのは、1867年に開催されたパリ万博でフランスが各国に向けて盛んにアピールしからだ。普遍的な基準が求められる世界情勢だったこともあり、フランスの広報活動が実った。

 だが、地球科学の発展により、地球は単純な球ではないことがわかると、定義を疑問視する声が上がった。このため1869年、それまで広報活動に用いていた白金製のメートル原器「アルシーヴ原器」を基準とする定義に変わった。

 その後、精度が高くより普遍的な基準が求められ、1960年に開催された第11回国際度量衡総会で定義が変更された。同会は「クリプトン86原子の準位2p10と5d5の間の遷移に対応した光の真空中における波長の165万0763.73倍の長さ」を新たな定義とした。

 さらに、1983年に開催された第17回国際度量衡総会で「2億9979万2458分の1秒に光が真空中に進む長さ」と定義を変更。現在の「メートル」の定義となっている。