水を危険な化学物質として規制しようとしたアメリカの市議会がある

|No.189

 アメリカ・カリフォルニア州のアリソ・ビエホ市の議会で、水(H2O)が危険な化学物質として規制されそうになったことがある。

 発端となったのは、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の学生、クレイグ・ジャクソンが1994年に立ち上げたジョークサイト「DHMO.org」。水を「DHMO」と言い換え、聞き手に否定的な印象を与えるような表現で紹介するジョークを掲載した。

 元となったジョークは1990年、同校の学生、エリック・レヒナー、ラース・ノーフェン、マシュー・カウフマンらが考案。Dihydrogen Monoxide(一酸化二水素)を略し、DHMOと名付けた。

 同ジョークサイトではDHMOについて①水酸と呼ばれ、酸性雨の主成分である②温室効果を引き起こす③重篤なやけどの原因となりうる④地形の侵食を引き起こす⑤多くの材料の腐食を進行させ、さび付かせる⑥電気事故の原因となり、自動車のブレーキの効果を低下させる⑦末期がん患者の悪性腫瘍から検出される⑧吸引すると死亡する―と紹介。

 また、危険性に反して日常的に用いられていると社会問題調に論じ、例として①工業用の溶媒や冷却材②原子力発電③発泡スチロールの製造④防火剤⑤各種の残酷な動物実験⑥防虫剤の散布⑦各種のジャンクフードやその他の食品の添加物―を挙げた。

 アリソ・ビエホ市で2003年、発泡スチロール製のコップの製造過程で「危険物質」DHMOが使用されていることが判明。市主催の事業での使用禁止を制定する投票決議が行われようとしていた。

 後に「DHMOは水のこと」だとわかり投票は中止となったが、市の失態に批判が集まった。市政担当官のデイビッド・ノーマンはAP通信の取材に対し「法務担当がリサーチを誤ったんだ。非常にバツの悪い話だ」と話した。

 DHMOは、アメリカ・アイダホ州の中学生、ネイサン・ゾナーが1997年に行った調査「人間はいかにだまされやすいか」(How Gullible Are We?)の中でも用いられている。

 調査では、DHMOの性質について感情的に説明した上で「この物質は法で規制すべきか」と質問。聞き手がどのように認識するか検証された。結果は、50人中43人が賛成してしまい、6人が回答を留保。水であると見抜いたのは1人だけだった。